“デジタル番長”が見据える新たな創造の架け橋。企業とフリーランスの未来
こんにちは。LANCER UNIT(ランサーユニット)note編集部です。
プロのクリエイターを複数人選し継続的にクリエイティブ制作を発注できるランサーユニット。導入いただいている企業さまのインタビューをシリーズでご紹介しています。今回は、株式会社ダブルオー・アートさまです。
富士フイルム株式会社のプロダクトデザイナーを経てフリーのCGアーティストとして独立した、“デジタル番長”の異名を持つ船戸賢一さま。現在は『株式会社ダブルオー・アート』を立ち上げ、代表を務めています。
大きなプロジェクトが動いたタイミングで、ランサーユニットならではのサービス内容をうまく利用してお仕事をやり遂げています。その活用方法やフリーランスクリエイターとの関係について、船戸さまに詳しくお話を伺いました。
ー 現在は法人化されて代表を務めていらっしゃいますが、ご自身の経歴をお聞かせいただけますか
東京藝術大学のデザイン科で人物描写やプロダクトを中心に学び、卒業後は富士フイルムに入社してデジタルカメラなどをデザインしていました。
仕事をするなかで3DCGを扱うのですが、幼少からの映画を作りたいという思いと、CGノウハウを活かしたキャラクターなども作ってみたいという気持ちが強くなり、思い立ったのが入社13年目。会社に在籍したままデジタルハリウッドの総合Proコースに通いはじめました。
そこで3DCGソフトを習得して2004年、ちょうど卒業のタイミングで新設されたデジタルハリウッドの大学院のディレクターコースに1期生として入学しました。
主にクリエイターを束ねるディレクションを学ぶのですが、起業の何たるかに関しても教えていただくわけです。会社はいずれ辞めるつもりでいましたし、修了と同時に退職してすぐに自らの会社を立ち上げました。
諸々経緯があってその会社は一旦たたみましたが、フリーランスとして活動を続けて、改めてまた法人化したというかたちですね。
ー 独立されてから現在に至るまで、どのようなお仕事に携わってこられましたか?
まずは大学院の修了制作の話になるのですが、かねてよりずっと好きだった音楽と映像を融合させて何かを創りたいという思いがありました。
そこで、藝大時代からの友人であるヴァイオリニストの葉加瀬太郎氏とコラボしたDVDを作らせていただくことに。彼とは音楽と美術で別の学部だったのですが、大学1年のとき彼が実行委員長でもあった学園祭の実行委員に参加したのがきっかけで付き合いがはじまり、それ以来かれこれ30数年が経ちました。
その作品は葉加瀬氏の楽曲からイメージを映像化した『Bloom』という2枚組のDVDなのですが、1枚目にはフルCGの映像を付けた12曲を収録、2枚目には特典として、葉加瀬氏とデジタルハリウッドの杉山学長と自分、3人のインタビューやメイキング映像を入れました。
デジタルハリウッドの大学院生、学生やOBもスタッフとして参加し、僕はプロデューサーとアートディレクターをやらせていただきました。今考えると、当時の技術で恐れ多いという感じですが。
そこをきっかけに仕事が広がっていって、いろいろなアーティストのPVなども手がけさせていただいています。ピアニストの西村由紀江氏のYouTubeに載せる動画の撮影・編集や、映画のVFXやロボットデザイン、最近ではVTuberのキャラクターデザインなども担当しました。映画を作るうえでも大事なカメラのデザインをしていたことから写真撮影テクニックにも詳しくなったので、スチール撮影をやらせていただくこともありますね。今でも愛着があって、ずっと富士フイルムのカメラを使っています。
ー ランサーユニットはどんなお仕事で利用されたのですか?
葉加瀬氏の公式LINEアカウントやインスタグラム、YouTubeで発信するCG動画の制作です。『Travel with Me!!』というタイトルで、すでに順次公開されています。
葉加瀬氏のレーベル株式会社HATS UNLIMITEDの社長に、2021年4月から奥さまでもある高田万由子氏がご就任されまして、時節柄、皆さんが旅行に行けないことから、公式ファンクラブの『たろちゃん』というキャラクターが葉加瀬氏の素敵な楽曲に乗せて世界旅行をする映像を作れませんか?という依頼をご指名で受けました。
その企画ボリュームから、これは一大事ということで、シナリオ構想を読んでみるとこれまた大変そうな印象で。さらに、1ヵ月で3本公開するペースのシリーズものという。
普段は自分一人で仕事をすることが多いのですが、「これは一人じゃ大変。何とかせねば」ということになり、ランサーユニットにお願いすることにしました。
ー 制作にあたって、どんなところがいちばん大変でしたか?
『Travel with Me!! 』は、たろちゃんが日本からイギリスに出発する旅立ち編からはじまります。その後ヨーロッパ各国を周遊してからインドに行き、ブラジルへ行って再び帰国するという内容です。
たろちゃんがトコトコ歩いて飛行機に乗ったり、ロンドンバスで街を巡ったり、ひとつの国ごとに1本の動画になっています。それぞれ1分ほどの長さですが、作り込む情報量がとても多いんです。
例えばイギリス編の場合、バスに乗って観光した後にハイドパークへ向かい、そこにたくさんの友人たちがいて、みんなの前でヴァイオリンの演奏をします。
バスから見える風景も必要ですし、ハイドパークで迎える友人たちも一人ひとりモデリングしなくてはいけません。公園では犬を走らせたりもしますが、4本足で走る動物を作るのはけっこう大変なんです。1分間にこれだけのことが詰まってます。
インド編で登場する象は、鼻も耳も動くうえに人間が乗ったりするのでさらに手間がかかります。フランス編では高速列車『TGV』が大変でした。走行するシーンでしたから全車両を作らなければいけませんし、まわりの風景も必要です。それらをすべて動かす映像で表現してくださいというご依頼でしたので、かなり労力のかかる作業でした。
ー そのお仕事で初めてランサーユニットを利用したのですね
はい、そうですね。基本的に一人での仕事が多いのですが、業務が立て込んだとき、今までは知り合いの範囲内で手伝ってくれる人を探していました。
企業にお勤めの方やフリーランス、いろんな方がいらっしゃいますが、もちろん他に仕事を抱えているので難しいこともあります。それにCGの場合は得意不得意があるので、スケジュールが合う方のなかから、さらに厳選しないといけません。そしてキャラクターをちゃんと作れる方は意外と少ないので、見つかるまで時間がかかることもあります。
そこで、ランサーユニットを利用することにしました。登録しているクリエイターは皆さんデジタルハリウッドの卒業生ということで、僕はOBでもありますからそこに対しての抜群の信頼感はありましたね。
利用を決めてからメンバーが決定するまでがとにかく早かった。最初に10名くらいのリストをいただいたので、作品を見ながら選考しました。すぐにZoom面談をして、わずか数日で決まったと思います。
ー 依頼したのはどういうメンバーですか?
はじめは1名だけお願いしましたが、途中から2名にしていただきました。というのも、CGというのはモデリングが得意な人とアニメーションが得意な人がいますので。最初の方はどちらもできたのですが、人物造型が今ひとつ得意ではないように感じ、モデリング専門の方を追加で紹介していただきました。
途中から加わった方はダブルワーク可の有名なCG会社に勤められていて、空き時間にやってくださいました。1日2〜3時間しか作業できないのに、ものすごく仕事が早くて助かりました。フランス編で登場する女の子のモデルなどは1日1体の早さで上げてくれて、2名体制にしてからはかなりスピードアップしましたね。
最初から契約していた方もベテランのフリーランスですので、ものが大量に出てきたときや動きをつけるアニメーションの熟練度はさすがという感じでした。メカも得意だったので、ロンドンバスなどはディテールにまで凝って作り込んでいただきました。
スペイン編ではサッカーのシーンがあったので、選手も観客もたくさん出てきます。背番号を振ったり顔をすべて変えたりするので、結構な作業量でした。期間内で僕が対応しきれない細かな作業を山ほどこなしてくださって、とても助かりました。
2名とも経験値が高い方ですので、本当に対応が早かったです。専用のプラグインを入れないといけないデータを変換するなど、専門的な作業をしていただけたのもよかったですね。
ー メンバーとのやり取りはスムーズでしたか?
それぞれ広島と大阪の方で、面談はZoomで行ないました。2名とも実際にはお会いしていなくて、すべてオンラインでのやり取りです。
今のご時世には合っていますし、僕もむしろそのほうがやりやすい。打ち合わせのための移動は時間がもったいないし、作業場にいながら素早くやり取りできるなら、それがいちばん良いと思っています。
最初のうちはメールでやり取りしていましたが、途中からLINEのグループに切り替えました。画像をアップしやすく、やり取りの履歴も残り、いつ何をお願いしたのかを簡単に確認できますので。
どちらの方も会社の業務や抱えている仕事が他にあるので、深夜の連絡などもよくありました。でも基本的にデータのやり取りがベースになるので、まったく問題はないですね。
ー フリーのクリエイターとの関係性について、どうお考えですか?
業種にもよりますが、社員を雇ってオフィスを構えるというのは、今の時代そぐわない流れになりつつあります。
リモートワークが推進され、オフィスを持たない企業も出てきました。そういう意味でも、フットワーク軽く働きやすさを重視するスタイルは好きですね。特にこういったCGの制作は、アウトプットが向上するのであれば毎日顔を付き合わせている必要がないとも思っています。
勤務時間や社会保険など、社員として雇うとなると企業側もやることが増えますし、僕たちのような仕事はどうしてもアウトプットへの対価で考えるほうが分かりやすい。
きちんと業務委託契約を交わしたうえで、案件によってクリエイターの力量や仕事量に見合う見積りを出していただき、お支払いする。今回は特にそういったかたちが理想的でした。
ー ランサーユニットは3ヵ月間の利用ということですが、今後も考えていらっしゃいますか?
また大きなプロジェクトが動いたときにはぜひお願いしたいですね。3名3ユニットまでということなので、その規模によって人数を考えたいと思っています。
葉加瀬氏のLINE動画はあと数本続きますが、それが終わった後でまた新しい企画の話もありそうですし。今回で慣れていただいたと思うので、また同じ方のほうがやりやすいかもしれません。スキルも分かり、何が得意で何が不得意なのかも把握できましたので。
極端な話ですが、最近のCG技術進歩も相まって、かなり短時間で高クオリティな作品づくりを一人でできる流れが来ています。自分だけでこなせる仕事量のときは人を雇わなくていい、ということにもなります。プロジェクトが動くときだけ集まって、完了したら解散というように。
どうしても人が足りないときにお願いする利用方法をとれるのも、ランサーユニットの利点ですよね。僕にとって3ヵ月という期間はちょうどいい単位だと感じていて、今回のケースでは大変なことはだいたい終わりました。
もし企画自体が軌道に乗って続くことになったらそのまま継続することもできますし、今後も引き続きお付き合いしていくと思います。
ー 船戸さまにとってランサーユニットはどのような存在で、何がいちばんのメリットだとお考えですか?
縁をつないでいただいたという意味で、とても大きな存在だと感じています。活動エリアも違うまったく面識のない方を紹介してもらえて、新しい出会いがありました。
また、実際ランサーユニットを利用しなかったら、今回のプロジェクトは進められなかったとさえ思っています。特に、初動。動き出すまでの時間を短縮できたのは大きい。
知り合いをたどって探すとなると、時間も労力もかかります。例えば企業に所属している人の場合、まず社長に話をつないでいただいて人を紹介してもらい、そこで技術的に問題がなかったとしても、稼働時間に折り合いがつかなかったらまた別の人を探さなくてはなりません。
スケジュールと必要なスキルを伝えて確実に動ける方を探してらえるのは、費用対効果も含めて大きなメリットです。
今回の企画でいうと、絵コンテを描いている段階でスタートすることが決まり、公開が1ヵ月後でした。すぐにモデルを作りはじめなければ間に合わないようなスケジュールで、前述のようなやり取りをしている時間がまったくありませんでした。
ランサーユニットは抱えているクリエイターの層も厚いですし、目的に合わせた方を選んでいただけたのでとても感謝しています。
ー ありがとうございました。
最後に、株式会社ダブルオー・アートとして今後の展望をお聞かせください
新たな社名にも表れていますが、もう少し芸術にシフトしたことをやりたいと思っています。もちろんCGもイチ要素ですが、流行り廃りのあるテクノロジーに振り回されず息の長い作品作りをしたいという気持ちがあります。
例えばプロダクトデザインをしていたとき特に感じていましたが、デジタルカメラというのは3ヵ月程度で新機種が発売されます。せっかく精魂込めてデザインしても、中身のデバイスも併せ、すぐに古いものになってしまうのです。そういう世界に常々疑問を抱いていました。
最近、写真のプリントが仮想世界でも新たな流通形態で販売されたりしていますね。『銀塩プリント』というものは500年以上残ると言われていて、富士フイルム時代から改めてメディアとしての写真の価値はすごいなと感銘を受けています。
そういった物理的な意味ではないのですが、映像の仕事でもあまり流行り廃りのある作品は作りたくないと思っています。たろちゃんのCG動画も、流行を気にすることなく「動く絵本」のような映像になっています。新しいとか古いとか時代に関係なく、シンプルに「かわいいキャラクターが動いている」そういう思いで手がけました。そもそも葉加瀬氏の音楽そのものが時代に左右されないどっしりした魅力があるわけですし。
まだ漠然としていますが、映像をひとつの軸として、これから先もずっと人の心に残り続けるもの、スタンダードなもの、芸術としての作品を残したい。それが今回新たに法人化した理由のひとつでもあります。
優れた作品は太古から色褪せない“サステナブル”な感動がある。幼少からの「映画が創りたい」という原点から、これまではエンターテインメント性が高い映像を中心に関わってきました。でも今後は、もう少し大枠を出て、社会彫刻的に何ができるかということにシフトしながら活動していきたいと考えています。
大きなプロジェクトを受注した際にランサーユニットを活用し、その時点で必要な人材をスピード感をもって採用できたのがポイントでいらっしゃったようです。リモートのやり取りで問題のない業務だけに、遠方で活動する技術の高いクリエイターとの新しい出会いは大きな利点だったのではないでしょうか。
ランサーユニットの導入をご検討の企業さまは、お気軽にご相談ください。